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山口地方裁判所 平成4年(ワ)220号 判決

原告

三浦忠雄

被告

桑原一絃

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金六七万三二五九円及びこれに対する平成二年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金七九四万〇一九八円及びこれに対する平成二年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故発生を理由に、被告らに対し、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条に基づき損害賠償を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 発生日時 平成二年四月一五日午後七時一八分ころ

(二) 発生場所 山口県阿武郡阿東町大字徳佐上七八番地 真鍋利三方先国道九号線道路上

(三) 加害車両 車種 普通乗用自動車

登録番号 山五八さ九七九六

保有者 被告桑原一紘(以下「被告一紘」という。)

運転者 被告桑原英靖(以下「被告英靖」という。)

(四) 被害車両 車種 農作業用トツプカー

運転者 原告

(五) 態様 加害車両が被害車両に追突したもの。

2  責任原因

被告一紘は加害車両を所有し、被告英靖は父である被告一紘より加害車両の貸与を受け、いずれもこれを自己のため運行の用に供していた者である。

3  原告は、本件事故により、頭部外傷、外傷性くも膜下出血、外傷性頸部症候群、腰部・背部・右上腕・左足関節・左膝・下腿部打撲の各傷害を負い、次のとおり入通院治療及び温泉治療をした。

(一) 入通院治療

(1) 津和野共存病院

入院治療 平成二年四月一五日から同月二三日まで。入院日数九日間(付添看護九日間)。同月二三日済生会山口総合病院へ転医。

(2) 済生会山口総合病院

入院治療 平成二年四月二三日から同年五月七日まで。入院日数一四日間(四月二三日は入院日数に算入せず。付添看護一四日間)。

通院治療 平成二年五月八日から同年一一月二二日までの一九九日間。通院実日数一五日。右通院期間中の同年五月二四日から同月二八日までの間、山口県立中央病院で二日通院治療を受けているので、通院実日数は計一七日となる。

(3) 坂本整形外科病院

入院治療 平成三年一月八日から同年二月二八日まで。入院日数五二日間。

通院治療 平成三年三月一日から同年五月二八日までの八九日間。通院実日数一五日。

入院日数計七五日間

通院期間計二八八日間、実日数計三二日

(二) 温泉治療

平成二年五月一四日から同年九月二八日の一三八日間。実日数五四日。右のうち二八日間は、島根県鹿足郡柿木村木部谷温泉松乃湯、うち二六日は山口県佐波郡徳地町抽木慈生温泉。

4  損害の填補

原告は、これまでに、本件事故に関する損害の填補として、合計五〇八万八〇五〇円を受領している。

二  争点

1  原告の受傷内容と本件事故との因果関係について

(一) 原告の主張

原告は、本件事故により、前記の傷害を負い、そのため、前記のとおりの入通院治療及び温泉治療を受けたが、なお、原告には、自賠法施行令二条別表一二級の一二号に該当する後遺障害が残された。

(二) 被告らの主張

原告は、平成二年夏ころには一応治癒したか、症状固定していた。平成三年になつての入通院は、原告の経年性脊椎変化による悪化や原告の就業による悪化によるものと考えるべきである。したがつて、坂本整形外科病院(以下、「坂本病院」という。)での入通院治療費及び平成三年以降の欠勤一一〇日についての休業損害に対し、被告らは賠償義務がない。仮に、右入院治療費等につき、因果関係が認められるとしても、総損害のうち、二割を減額するのが相当である。

また、後遺障害は認められない。

2  過失相殺の成否

(一) 被告ら

本件事故は日没後に発生しているが、被害車両には、ストツプランプも前照燈もなく、車幅燈及び尾燈もなく、反射板も向かつて右側はなくなつており、左側も古いのであつて、無燈火であり、反射板もほとんど効果をあげていなかつた。

また、被害車両は「トツプカー」と呼ばれ、運行の用に供することが禁止されているにもかかわらず、原告は国道九号線という幹線道路で運転していたのであり、仮に、運転は止むを得ないとしても、原告が幅〇・九メートルの路側帯を利用していれば、被害車両は数十センチメートルしか車道にはみ出すことがなく、事故が防止できたはずである。

(二) 原告

争う。

3  その他損害額

第三争点に対する判断

一  原告の受傷内容と本件事故との因果関係について

1  本件事故の状況について

前記争いのない事実に、証拠(甲六ないし九、一一、一八、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、被害車両のトツプカーを運転し、前記本件事故の発生場所を益田方面から山口方面に向かい、道路左車線を時速七ないし八キロメートルで進行していた。

(二) 被告英靖は、加害車両を運転し、原告と同じく、益田方面から山口方面に向かい、道路左車線を時速約七〇キロメートルで進行していたが、同乗者との会話に気をとられ、前方注視を怠つたまま漫然と進行した過失により、同方向に進行中の被害車両に約一三メートルの至近距離で初めて気づき、右ハンドルするも及ばず被害車両に追突した。

(三) 本件事故により、加害車両はボンネツトが凹曲損し、バンパーが凹損し、左前フエンダー及び左前照灯が破損した。被害車両は、後部あおりが凹損し、右側あおりが離脱し、アングルが曲損した。

(四) 被害車両は、右追突により、二〇メートル以上前にはねとばされ、原告も、被害車両から投げ出されて、一〇メートル近く飛んで、六メートルぐらい下に落ちた。

2  原告の受傷内容と本件事故との因果関係について

被告らは、坂本病院での入通院治療費及び平成三年以降の欠勤一一〇日についての休業損害に対し、被告らは賠償義務がない、仮に、右入院治療費等につき、因果関係が認められるとしても、総損害のうち、二割を減額するのが相当である、また、後遺障害は認められない旨主張するので、以下、検討する。

(一) 確かに、原告は、平成二年七月一日からは、欠勤はあるものの、タクシー運転の業務に従事していたこと(甲二一、乙一三の二)、済生会病院整形外科における治療は、平成二年五月三一日には中止となつていること(乙三の二)、同病院脳外科では、外傷性頸部症候群もあわせて傷病名としているが(乙四の一、五の一)、現実の通院は、平成二年六月から一一月まで月二回平均であつたこと(乙四の二、五の二)、原告が本件後遺障害につきいわゆる事前認定手続を採つたところ、担当調査事務所より、二度非該当の認定を受けたこと(乙一、二三)などが認められる。

(二) しかしながら、前記争いのない事実に、証拠(甲二二、乙二の一、三の二、四の一、一四の四の一、一四の六の一、一四の七の一、一四の一一、一五の一ないし二五、一七の二、一七の五、証人坂本強、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、本件事故により強い衝撃を受けて被害車両から投げ出され(前記1の(四))、ほぼ全身に打撲を負い、前記のとおりの傷害を負つた。

(2) 原告は、自己の身体につき、本件事故前には何らの異常も感じていなかつた。

(3) 津和野共存病院(以下、「津和野病院」という。)の診断書には傷病名として腰部等の打撲との記載が、済生会病院の診断書には傷病名として背・腰部打撲兼捻挫との記載が存する。

(4) 原告が済生会病院を退院する際(平成二年五月七日)には、首と腰に痛みはあり、整形外科の医師から引き続き入院して治療してみてはとの話があつた。また、同じころ、原告は、済生会病院で、温泉治療と通院しながら薬を飲んでみたらどうかと言われた。

(5) 原告は、平成二年五月、済生会病院を退院後、山口県立中央病院を受診した。その際、通院して治療するようにとのことであつたが、済生会病院で温泉治療と通院しながら薬を飲んでみたらどうかと言われたと言つたところ、ここに通院するのも同じだからそれでもよいと言われ、また、気長に治療することが必要だと言われた。

(6) 原告は、平成二年一〇月一日、坂本病院で受診した。その際、坂本医師に対し、首筋から右肩、上肢にかけての痛み、右の前腕、肘から手首まで、前腕から手にかけて、肘から指先までのしびれ感と腰痛等がずつと持続している、それと頭痛があり、脳外科で治療を受けているが軽快しない、というような訴えをし、坂本医師が診察をすると、首を動かすと痛いとか、特に後方へ屈曲させた場合、右のほうに側屈をした場合、右側のほうに傾けると痛みがある、そして、右の上肢、肩から腕、手のほうにかけて脱力感があるということであつた。坂本医師は、同日、原告に対し、症状がずつと続いているようだつたら入院をしたほうがいいと勧めた。原告は、部屋が空いていなかつたから、すぐに入院しなかつた。

(7) そして、平成三年一月七日、坂本医師が原告を二度目に診察した際には、全般的な症状は同じであるが、原告の痛みは増強していた。

(8) 原告は、平成三年一月八日から、坂本病院に入院したが、入院中は、主に、頭痛と、首筋から右肩、上肢にかけての疼痛があつたので、神経ブロツクをやり、腰の痛みについては、腰痛用のコルセツトをし、その他理学療法、牽引療法などを行つた。

(9) 平成三年二月二八日に原告が坂本病院を退院した際には、全体的に、腰の症状も、首の症状も軽快していた。

(10) 原告は、その後も坂本病院に通院し、たとえば、平成三年三月二日には、時々左の後頭部痛が起こるということで、後頭神経ブロツクをし、同月二六日には、首筋から右の肩にかけての痛みがあつて、右の上肢、右の腕にしびれ感があり、長く座つていると腰痛が起こり、第四腰椎の両側、特に左側のほうに痛みが強かつた。また、同年五月八日には、時々頭痛が出たりするということで、神経ブロツクをした。

(11) そして、坂本医師は、平成三年五月二八日に症状固定したと判断したが、その際、原告には、自覚症状として、天候の悪いとき、頸の運動時痛がある、頭重感、頭痛がある、腰痛のため中腰位を長くとり難い、座位時疼痛が増強する、他覚的には、レントゲン所見として、第五頸椎と第六頸椎の椎間の狭小化、第五頸椎の下縁部と第六頸椎の上縁部の骨に変形性脊椎症の変化が出ていた、両後頭神経に圧痛が陽性、首の後屈時に痛みがある、第五腰椎の右側に圧痛があるということであつた。

(12) 坂本医師は、「(首とか肩の症状につき)レントゲン的なものを見て、これが原因だということを決めつける訳にはいきませんが、しかし、現在、残つている症状からみますと、やはり、頸椎の変化が原因になつているんだと思われますね。」「(首とか腰の症状につき)そこに外傷が働けばですね、そういう症状が潜んでいたものが表面に出てくるということは、あり得ると思います。それから、あるいは、出やすかつたんではないかということも考えられますね。あるいは、その外傷から半年ぐらいして私のところにお見えになつておりますので、その間にレントゲン的な変化がおこつたものであるか、ないかという問題も一つあると思うんです。それは、受傷時のレントゲンを参考にすることになると思います。」 「第五頸椎と第六頸椎の椎間の狭小化は、外傷によつて起こることもあります。これについては、最初、撮られたレントゲンを見なければ、はつきり申し上げることは、具合が悪いんじやないかと思います。」、「腰の方は老化現象と考えられ、常識的判断としては、元々、変性辷りがあつて、強い外傷が働いたために腰の痛みが非常に強くなつた。」、「原告につき、診断書に記録している程度の痛みが(自賠責でいう)一四級に該当しないというのは、どういうことかなという感じはいたしますね。」などと供述している。

(三) 右認定の事実によると、原告は、本件事故によつて、前記の傷害を負い、その症状は、遅くとも平成三年五月二八日には固定し、前記(二)の(11))の後遺障害を残したものということができる。しかし、原告が右傷病により入院七五日、通院二八八日(実通院日数三二日)もの期間の治療を要し、右症状の後遺障害が残存したことの原因としては、本件事故による傷害のほかに、本件事故以前から原告がすでに保有していた経年性の腰部の変性並びに原告が平成二年七月初めよりタクシー勤務を再開したという原告側の事情によることも否定し難く、結局、治療期間の長期化と後遺障害の右症状は、本件事故による傷害と右事故によつて顕在化した腰部の変性及びタクシー運転手としての勤務を再開するなど原告自身の責に帰すべき事情による病状の憎悪化とが競合して生じたものというべきである(証人坂本強、原告本人、弁論の全趣旨)。そして、原告が本件事故によつて受けた傷害及び後遺障害は、右腰部の変性の存在あるいは原告の責に帰すべき事情による病状の増悪化によつて因果関係が否定されるとまではいい難いが、右腰部の変性の存在あるいは原告の責に帰すべき事情による病状の増悪化が損害の拡大に寄与している本件のような場合には、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、裁判所が損害賠償額を定めるに当たり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、右腰部の変性の存在等を斟酌すれば足りるものと解するのが相当である。

そして、本件事故の態様、傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害及び右腰部の変性の内容、程度、両者の関連性等の諸事情を総合勘案すると、原告の損害発生に対する右腰部の変性及び原告の責に帰すべき事情による病状の増悪化の寄与度は、一割と認めるのが相当である。

また、原告は、原告の本件事故と相当因果関係の認められる後遺障害の程度について、自賠法施行令二条別表一二級一二号に定める「局部に頑固な神経症状を残すもの」に当たる旨主張し、一方、被告らは、後遺障害は認められない旨主張するが、前記認定事実によると、同表一四級一〇号にいう「局部に神経症状を残すもの」に該当するものと認めるのが相当である。

二  原告の損害について

1  積極損害

(一) 治療費(請求額二一七万一七八四円) 二一七万一七八四円

津和野共存病院における治療費として四〇万七七〇四円、済生会山口総合病院における治療費として七四万〇二三〇円、山口県立中央病院における治療費として一七二〇円、それぞれ要したことは当事者間に争いがない。

また、証拠(乙七の一ないし四、乙八の一ないし七、乙九の一及び二、乙一〇の一ないし三、乙一一の一ないし三)によれば、原告が、坂本整形外科における治療費として一〇二万二一三〇円を要したことを認めることができ、前記のとおり、右治療費は相当因果関係を認めることができる。

(二) 入院諸雑費(請求額九万円) 九万円

一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であるから、七五日間で右金額となる。

(三) 付添看護料(請求額一一万五〇〇〇円) 一〇万三五〇〇円

一日当たり四五〇〇円と認めるのが相当であるから、二三日間で右金額となる。

(四) 通院費(請求額四万八四四〇円) 四万八四四〇円

当事者間に争いがない。

(五) 転院費用(請求額二万三三八〇円) 二万三三八〇円

当事者間に争いがない。

(六) 腰椎装具費(請求額二万〇〇五三円) 二万〇〇五三円

当事者間に争いがない。

(七) 温泉治療費(請求額四万八四〇〇円) 〇円

温泉治療費については、医師の指示に基づくなど、必要性・有効性が明らかであれば、損害として認めるのか相当であるところ、前記認定した事(一の2の(二)の(4))からすれば、原告の温泉治療費は損害として認めるのが相当である。しかしながら、相当額の入湯料及び交通費を要したことは推認することができるが、この金額を具体的に認めるに足りる証拠は存しない(ただし、慰謝料の斟酌事由とすることとする。)。

2  消極損害

(一) 休業損害

(1) 休業損害(請求額一九七万四九六六円) 一六二万三九七五円

証拠(乙一三の一ないし九、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時、株式会社大隅タクシーにタクシー運転手として勤務し、平成二年一月から同年三月までの三か月間に総所得八二万五七三三円を得ているから、休業損害としては、一日当たり九一七五円(円未満四捨五入。以下同じ。)として、欠勤日数が一七七日であるから、一六二万三九七五円が相当である。

(2) 賞与減額分(請求額三四万八五三三円) 三四万八五三三円

証拠(乙一三の一〇ないし一二)によれば、原告は、本件事故により欠勤して、平成二年下期分(平成二年四月一六日から同年九月三〇日までに八五日間欠勤)として一五万七六五九円(欠勤がなければ支給される総額二七万九二七七円)、平成三年上期分(平成三年一月八日から同年三月三一日までに六九日間欠勤)として一三万八六五五円(欠勤がなければ支給される総額二七万四九八〇円)、平成三年下期分(平成三年四月一日から同月二七日までに二三日間欠勤)として五万二二一九円、それぞれ賞与が減額されたことが認められるから、賞与減額分として三四万八五三三円が相当である。

(3) 農作業分(請求額四二万九三五〇円) 〇円

証拠(原告本人)によれば、原告には田が一町三反あり、耕作しているのは一町であり、減反部分三反は大豆を植えていたことが認められるが、農作業によつてどれだけの収入を得ていたか、あるいは、本件事故によりどれだけ収入が減つたのかは明らかではなく、この金額を具体的に認めるに足りる証拠は存しない(ただし、慰謝料の斟酌事由とすることとする。)。

(二) 後遺障害に基づく逸失利益(請求額二五五万八三四二円) 三五万八九八九円

前記のとおり、原告の後遺障害は、自賠法施行令二条別表一四級一〇号に該当するものと認められるところ、その症状の内容、程度、原告の内容等を考慮すると、原告は、本件後遺障害により、症状固定から二年間にわたり、その労働能力を五パーセント喪失し、その財産上の損害を被つたと認めるのが相当である。

そこで、前記(一)で認定した額などを基礎とし、原告の本件後遺障害による現価額を、ホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、次のとおりとなる(新ホフマン係数は、一・八六一四)。

(八二万五七三三×四一+二七万九二七七十二七万四九八〇)×〇・〇五×一・八六一四=三五万八九八九円

3  精神的損害(慰謝料)(請求額 入通院分二〇〇万円、後遺障害二五〇万円) 二二五万円

以上認定の原告の受傷の内容、程度、症状及び治療の経過、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は、二二五万円(入通院分一四五万円、後遺障害八〇万円)とするのが相当である。

4  本件事故の寄与度に応じた損害額

前記のとおり、被告らが責任を負うべき損害額は、本件事故が寄与した割合で九〇パーセントに限られるというべきであるから、その額は次のとおりとなる。

(一) 積極損害 二二一万一四四一円

(二) 消極損害 二〇九万八三四七円

(三) 精神的損害(慰謝料) 二〇二万五〇〇〇円

三  過失相殺

証拠(甲六、七、八、一九、二〇、乙一二の一ないし三、乙二一、二二、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  被告英靖は、加害車両を運転し、原告と同じく、益田方面から山口方面に向かい、道路左車線を時速約七〇キロメートルで進行していたが、同乗者との会話に気をとられ、前方注視を怠つたまま漫然と進行した過失により、同方向に進行中の被害車両に約一三メートルの至近距離で初めて気づき、右ハンドルするも及ばず被害車両に追突しており、その過矢の程度は大きいというべきである。

2  他方、原告としても、被害車両を運転すること自体が法規に違反する(また、運転するとしても、なるべく路側帯を利用すべきであつた。)上、日没後であるにもかかわらず、ストツプランプも前照燈もなく、車幅燈及び尾燈もなく、反射板も向かつて右側はなくなつており、左側も古いのであつて、無燈火であり、反射板もほとんど効果をあげていなかつた状態で、国道を被害車両で通行しており、自車の存在を後続車に対して明瞭ならしめる措置を何ら施していなかつたのであつて、原告にも落ち度があつたといわざるをえない。

右双方の過失の内容、程度、その他諸般の事情を考慮すると、原告と被告らとの過失の割合は、原告一割、被告ら九割とするのが相当である。

3  したがつて、原告の前記損害額から過失相殺として一割を控除すると、原告が請求しうべき損害額は次のとおりとなる。

(一) 積極損害 一九九万〇二九七円

(二) 消極損害 一八八万八五一二円

(三) 精神的損害(慰謝料) 一八二万二五〇〇円

四  損害の填補

原告が五〇八万八〇五〇円を本件損害の填補として受領したことは当事者間に争いがない。

したがつて、被告らが原告に賠償すべき損害の残額は六一万三二五九円となる。

五  弁護士費用

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、六万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上によれば、本訴請求は、被告らに対し、連帯して金六七万三二五九円及びこれに対する本件不法行為の日である平成二年四月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないことになる。

(裁判官 村木保裕)

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